※本記事は情報提供を目的としており、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。また、本記事の内容はあくまで筆者個人の見解であり、分析・予測の全てが正確であることを保証するものではありません。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。
はじめに
今回銘柄分析したのはSansan株式会社(4443)です。
名刺管理サービス「Sansan」や請求書受領サービス「Bill One」を展開するSaaS企業で、東証プライム上場。株価は2025年2月の底値994円から2026年9月時点で2,228円と、約1年半で+124%上昇しています。
注目したきっかけは2つあります。
1つは、2026年5月期の決算発表後に株価が昨年来高値を更新したこと。決算をきっかけに新高値を取る動きは、機関投資家も含めた市場全体が「業績を評価した」サインとして受け取ることが多く、注目するようにしています。
もう1つは、「SaaSの死」と言われた時期からの復活劇です。2021〜2022年のグロース株の暴落でSaaSセクター全体が壊滅的な打撃を受け、Sansanも2025年2月に株価が994円まで売り込まれました。そこからの+124%という上昇は、単なるリバウンドではなく、事業の実力が伴った本物の回復なのかどうか——それを確かめたくなったので分析をしてみました。
それでは分析詳細に移りましょう。
Sansanとはどんな会社か
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Sansan株式会社 |
| 証券コード | 4443(東証プライム) |
| 業種 | 情報・通信 |
| 主力サービス | 営業AX「Sansan」・経理AX「Bill One」・名刺アプリ「Eight」 |
| 決算期 | 5月期 |
「名刺管理の会社」と思っていたのですが、調べてみると事業の定義がかなり変わっていました。名刺・請求書・契約書といった企業活動の中で発生するアナログ情報をデータ化し、それをAIで活用できるインフラへと進化しようとしています。会社はこの方向性を「AX(AIトランスフォーメーション)」と呼んでいます。
主力の「Sansan」は法人名刺管理市場で85.8%のシェアを持ち、「Bill One」はクラウド請求書受領サービスでNo.1の売上シェアを獲得しています。この2サービスが成長の両輪となっています。
財務データの中身を読む
まず財務諸表を確認してみたいと思います。
損益推移(連結・単位:百万円)
| 指標 | 2024年5月期 | 2025年5月期 | 2026年5月期 | 前期比 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 33,878 | 43,202 | 53,761 | +24.4% |
| 売上総利益 | 28,814 | 37,410 | 47,263 | +26.3% |
| 売上総利益率 | 85.1% | 86.6% | 87.9% | +1.3pt |
| 調整後営業利益 | 1,709 | 3,555 | 8,427 | +137.0% |
| 調整後営業利益率 | 5.0% | 8.2% | 15.7% | +7.5pt |
| 経常利益 | 1,224 | 2,743 | 8,170 | +197.8% |
| 純利益 | 953 | 424 ※ | 6,778 | 大幅増 |
| EPS(円) | 7.59 | 3.36 | 53.58 | — |
※ 2025年5月期は投資先(Unipos社)関連の株式売却契約損失引当金2,301百万円を特別損失に計上したことで純利益が落込んでいます。実態の利益成長は続いていました。
売上の成長(+24.4%)を大幅に上回るペースで利益が増えています。調整後営業利益率は5%→8%→16%と急改善中で、「投資フェーズが終わり、利益が一気に出始めたフェーズ」に入ったことがわかります。
財政状態・キャッシュ(2026年5月期)
| 指標 | 2026年5月期 |
|---|---|
| 自己資本比率 | 36.4% |
| ROE | 38.8% |
| 現金・預金 | 37,006百万円 |
| 営業CF | 9,641百万円 |
財務面で特筆すべきは現金及び預金が37,006百万円という点です。総資産54,958百万円に対して67%が現金という、極めてキャッシュリッチな財務構造です。営業CFも9,641百万円と、実質的な稼ぐ力は過去最高水準にあります。ROEが7.1%→2.9%→38.8%と急騰しているのも、利益成長フェーズへの転換を如実に表しています。
配当・株主還元
| 期 | 配当(円) | 備考 |
|---|---|---|
| 2025年5月期 | 0.00 | 無配 |
| 2026年5月期 | 2.50 | 初配当 |
| 2027年5月期(予想) | 5.00 | 倍増予定 |
2026年5月期に創業以来初の配当(2.50円)を実施しました。「構造的に利益成長が加速するフェーズにある」として自己株式取得も実施しており、株主還元への姿勢が明確に変わっています。配当性向は4.7%とまだ低く、今後の余地は大きいです。
ビジネスモデルのKPIを追う
SaaS企業の実力は損益計算書だけではわかりません。「どれだけ顧客が積み上がっているか」「解約しにくいか」を示すKPIを追うのが重要です。
Sansanの売上構造は大きく2つに分けられます。
Sansan事業:契約件数 × 契約当たり月次単価
Bill One事業:有料契約件数 × 契約当たり月次単価
■ Sansan(営業AX)のKPI
| KPI | 2025年5月期末 | 2026年5月期末 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 契約件数 | 10,701件 | 12,199件 | +14.0% |
| 契約当たり月次ストック売上高 | 210千円 | 208千円 | △1.0% |
| 月次解約率(直近12ヶ月平均) | 0.49% | 0.55% | +0.06pt |
■ Bill One(経理AX)のKPI
| KPI | 2025年5月期末 | 2026年5月期末 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 有料契約件数 | 3,932件 | 5,188件 | +31.9% |
| MRR(月次固定収入) | 912百万円 | 1,231百万円 | +34.9% |
| 契約当たり月次単価 | 232千円 | 237千円 | +2.2% |
| 月次解約率(直近12ヶ月平均) | 0.33% | 0.34% | +0.01pt |
Sansanの月次解約率0.55%・Bill Oneの0.34%はいずれも1%を大きく下回っており、一度導入したら解約しにくいサービス特性が数字で証明されています。
特に注目したいのはBill Oneです。契約件数が+31.9%増えながら、単価も+2.2%上昇しています。「顧客が増えながら単価も上がる」という拡大再生産の構造が形成されていることがわかります。
一方でSansanの解約率は0.42%→0.49%→0.55%と3年連続でわずかに上昇しており、ここは注視が必要なポイントです。
成長ストーリーをどう読むか
現在地:「利益が爆発し始めた」タイミング
SaaS企業の成長には典型的なパターンがあります。初期は顧客獲得コスト(営業・マーケティング費用)が重く、利益が出にくい。しかし顧客が十分に積み上がると、追加の売上がそのまま利益に乗るようになります。
Sansanはまさにその「臨界点」を超えたタイミングにあります。
調整後営業利益率の推移
2024年5月期: 5.0% ← 投資フェーズ
2025年5月期: 8.2% ↓
2026年5月期: 15.7% ← 今ここ(利益急加速)
2027年5月期: 20.0〜22.5%(会社予想)
2029年5月期: 25〜30%(中期目標)
2025年5月期はUnipos関連の特別損失でEPSが3.36円まで落ち、市場が「業績悪化」と誤解して株価が994円まで売り込まれました。しかし実態は全く逆で、調整後営業利益はこの期も+108%増と好調が続いていました。「誤解による売られすぎ」からの回復が、底値994円からの+124%上昇の背景にあります。
次の成長ドライバー:Bill Oneが「第2のエンジン」へ
Sansanの次の成長を牽引するのはBill Oneです。いくつかの理由から、まだ成長余地が大きいと考えています。
① 法制度の追い風が「一過性」ではなかった
インボイス制度・電子帳簿保存法への対応需要が一巡した2024年度においても、クラウド請求書受領サービス市場は前年比+52.4%増でした。法制度対応の「特需」ではなく、デジタル化への構造的な移行需要であることが証明されています。
② 市場シェアNo.1でも浸透率はまだ約0.1%
現在の有料契約件数は5,188件。日本の法人数は約400万社で、浸透率はまだ0.1%台です。Sansanが名刺管理市場を2013〜2024年の11年間で21倍に拡大させたように、Bill Oneも同じ軌跡をたどる可能性があります。
③ 「請求書受領」から「全社経理AX」へ製品が拡張中
Bill Oneは当初の「請求書受領」から、経費精算・債権管理・月次決算加速へと機能が広がっています。一社あたりの利用機能が増えるほど単価が上がる構造で、実際に前期比+2.2%の単価上昇が確認できています。
④ AI活用でデータ価値が上がる好循環
Sansanが蓄積する名刺・請求書・契約書のデータは、外部から調達できない企業固有の構造化データです。AIの活用が進むほど、このデータの価値が上がる好循環が生まれます。会社が「AX(AIトランスフォーメーション)企業」として自社を再定義している理由がここにあります。
2027年5月期の会社予想をどう見るか
2026年5月期の実績と、2027年5月期の会社予想を比較します。
| 指標 | 2026年5月期(実績) | 2027年5月期(会社予想) | 前期比 |
|---|---|---|---|
| 売上高(百万円) | 53,761 | 63,706〜65,319 | +18.5%〜+21.5% |
| 調整後営業利益(百万円) | 8,427 | 12,741〜14,696 | +51.2%〜+74.4% |
| 調整後営業利益率 | 15.7% | 20.0%〜22.5% | +4.3〜+6.8pt |
| EPS(円) | 53.58 | 66.41〜81.04 | +23.9%〜+51.2% |
会社はレンジ形式での業績予想を開示しています。売上成長率の鈍化(+24%→+19〜21%)は会社が認識しており、予想に織り込まれています。
一方で調整後営業利益の成長率は+51〜74%と依然高水準で、「売上の伸び鈍化」と「利益率改善の加速」が同時進行するという構造は2027年も続く見込みです。利益率ベースで見ると、20〜22.5%という水準は2025年5月期の8.2%からわずか2年でここまで来るという話であり、利益成長の勢いは本物だと感じています。
目標株価の試算
分析時点の株価:2,228円(2026年9月4日終値)
| 時間軸 | シナリオ | EPS想定 | 想定PER | 目標株価 |
|---|---|---|---|---|
| 2027年5月期通過後 | 弱気(下限EPS) | 66円 | 38倍 | 2,508円 |
| 2027年5月期通過後 | 基本 | 73円 | 40倍 | 2,920円 |
| 2027年5月期通過後 | 強気(上限EPS) | 81円 | 45倍 | 3,645円 |
| 2028年5月期(中計進捗確認) | 中計通り | 100円 | 40〜45倍 | 4,000〜4,500円 |
現在のPERは41.6倍。2027年5月期のEPS予想中央値(~73円)に対して40倍を維持すると仮定するだけで、株価は2,920円となり現在から+31%の余地があります。
また、今回の第20回新株予約権の行使条件が「終値が3,987円を超過した場合」に設定されています。執行役員・従業員計105名のインセンティブがこの水準に連動しており、経営陣の実質的な目標ラインとも言える数字です。現在株価比では+79%の水準です。
PERが現在の40倍台を維持するだけでも、EPS成長によって2〜3年で株価が1.5倍以上になる計算になります。
懸念点
強みばかりではなく、気になるリスクも整理しておきます。
- 売上成長率の鈍化傾向:32.8% → 27.5% → 24.4% → 予想18〜21%と、着実に成長率が落ちています。SaaS企業にとって「成長率の鈍化」はバリュエーション(PER)の低下要因になりやすく、利益率改善がそれを補えるかが焦点です。
- Sansan月次解約率の上昇:0.42%→0.49%→0.55%と3年連続の上昇。1%未満は引き続き低水準ですが、方向性として上昇しているのは注視が必要です。0.6〜0.7%を超えてくるようだと、ビジネスの粘着性が低下しているサインになりえます。
- 高バリュエーション:PER 41.6倍・PBR 14.1倍は成長株として正当化できる水準ですが、成長鈍化や利益予想の下方修正があった場合、株価調整のリスクは大きいです。
- 特別損失の発生リスク:2025年5月期に投資先関連で2,301百万円の特別損失を計上した実績があります。投資・買収を積極的に行う会社である以上、同様のリスクは継続して存在します。
まとめ
- Sansanは法人名刺管理85.8%・クラウド請求書受領No.1という圧倒的シェアを持つSaaS企業です
- 2026年5月期の調整後営業利益は+137%増、利益率は5%→16%と「利益爆発フェーズ」に入っています
- Bill Oneは有料契約件数+31.9%・MRR+34.9%と高成長が続いており、浸透率0.1%台でまだ巨大な未開拓市場があります
- 2027年5月期の会社予想はEPS 66〜81円で、PER40倍維持なら株価2,500〜3,600円の水準を示唆しています
- 第20回新株予約権の行使条件(株価3,987円超)が経営陣105名のインセンティブラインとなっており、現在比+79%の水準が実質的な目標です
- 懸念点は売上成長率の鈍化・Sansan解約率の上昇・高バリュエーションで、これらのモニタリングが重要です


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